杉並区新産業実態調査を斜め読み

杉並区新産業実態調査というものが2009年3月に実施された。その目的は、「杉並区21 世紀ビジョン」で示された、情報通信など環境と共生し、成長が見込まれる新産業についてその実態を調査し、事業者個々の状況と総合的な現状を把握するとともに、これからの産業の育成や創業支援に資することである。

この調査は、アンケート調査・立地状況調査・電話帳調査・事業所統計調査データ分析に基づいている。本記事は、各セクションの冒頭に記述されたまとめ文を転記して構成し、一番最初に、全体のまとめを載せる。

杉並区新産業実態調査のイメージ画像

杉並区新産業実態調査のまとめ

全体傾向

電話帳調査結果や事業所統計調査データ分析結果より、杉並区の新産業事業所数は減少傾向にある。電話帳調査結果をみると、今回調査(2008 年10 月時点のデータ)は前回調査(2004 年11 月時点のデータ)に比べ、新産業全体で345 件減少している。しかし「福祉・介護系」と「健康系」はほぼ横ばいで推移している。

また、事業所統計調査データ分析結果をみても、平成18 年調査は平成13 年調査に比べ、杉並区で1,085事業所が減少している。しかし、「情報通信業」及び「医療、福祉」は増加傾向にある。また「常用雇用者数10人~49 人規模」の中事業所が増加しており、景気低迷の中にあっても活力がみられる。

立地環境

新産業事業所の転入の動向に注目すると、アンケート調査結果より、回答した604 事業所のうち、区外から転入経験がある事業所は約1/4 である。「アート・クリエイト系」並びに「他の事業サービス系」の事業所が多く含まれている。

中央線沿線の都心部から転入する事業所が多く、転入事業所における杉並区で操業を開始した理由としては、「交通の便がよいこと」をあげる割合が高い。このことから、「交通利便性」は杉並区の大きなセールスポイントとしてあげられる。

また、全事業所における杉並区で操業を開始した理由としては、「ここに住まいを確保したから」と回答した事業所の割合が高く、「福祉・介護系」を除く7 産業において半数以上の事業主・経営者は区内在住であり、職住近接のワークスタイルを実現している。

立地状況調査結果より、事業所の分布は、中央線沿線に集中していることが明らかである。特に荻窪駅及び高円寺駅周辺に集中している。
また、駅から1,000m圏内に9割以上の事業所が立地しており、駅間の交通の便がよいだけでなく、駅からオフィスまでの交通の便にも恵まれていることが明らかになった。

さらに詳細にみると、「健康系」は駅周辺に、「福祉・介護系」は住宅地周辺に多く立地している。その他の事業所に関しては、立地場所にあまり違いはみられない。

雇用環境・人材育成

新産業の事業所における採用実績は、アンケート調査結果より、過去3 年間の動向は「減らした」よりも「増やした」と回答した事業所の方が多く、将来についても採用を拡大したいという回答が多くなっている。中でも「情報・通信系」と「福祉・介護系」は採用意向が特に高い。

しかし、人材募集においては、「情報・通信系」も「福祉・介護系」もともに募集が難しいと感じている。その理由については、「情報・通信系」の場合は、「自社の知名度やイメージ」「自社の規模」など自社の内的要因が課題と感じているのに対し、「福祉・介護系」の場合は、「給与水準」「業界のイメージ」といった外的要因が課題と感じている。このため採用拡大において両者の取るべき対応策も異なると考えられる。

今後、企業が成長していくための課題としては、「人材の育成・確保」が必要と回答する事業所が最も多い。人材育成に関わるサービスの利用意向については、「公的機関の研修や講習」が3 割弱で最も多い。特に「福祉・介護系」は人材育成に対する課題認識が高く、サービスの利用意向がある事業所が8 割を超え、「公的機関の研修や講習」に関するサービスの利用意向は5 割を超える。

さらに、杉並区の産業施策に対する要望としては、「人材募集支援」や「人材交流」などが望まれ、人材に関連した行政の支援が強く求められている。

収益構造・事業展開

アンケート調査結果より、全体的に売上高減少の傾向にある事業所が多いが、「情報・通信系」においては売上高増加にある事業所の割合が高い。

収益増に成功した事業所は、顧客拡大に加え、新製品開発や経費削減などに取り組んでいる。一方、減益に甘んじた事業所は、経済環境の変化など外的要因の変化に対応できなかったことが理由としてあげられる。

各産業の将来性に関しては、最近の経済状況を反映してか不安視する傾向が強い。「環境系」は国内外を問わず将来性に高い期待が寄せられる分野であるが、杉並区が新産業として定義する「環境系」産業は建設関連企業を多く含むため、実態としては不況の影響を大きく受けているのが現状である。このため、新産業は「区内産業を牽引するような成長を期待する分野」と定義するのであれば、「環境系」産業に関しては枠組みを再構築することも必要と思われる。

回答事業所の基本属性について

事業所の規模・形態

  • 「単独事業所」(6 割半)が多く、また「資本金1,000 万円未満」(6 割)の小規模な事業所が多い
  • 「株式会社・有限会社」の法人形態が6 割、「個人事業」が3 割
  • 個人事業の事業所の法人化への課題は、資金面と手続きの手間にある傾向がある
  • 床面積が50 ㎡前後のオフィスが多く、「マンション」「アパート」「戸建住宅」などの住宅系が5 割
  • 小規模な事業所が多い産業は「4 研究開発・知的集約系」で、単独事業所、資本金なし、個人事業の事業所が多く、住宅系オフィスが多い
  • 比較的規模が大きい事業所の割合が高い産業は「1 情報・通信系」で、資本金1,000 万円以上の株式会社が7 割

事業所の創業年・移転経験

  • 10 年以内に創業した事業所は3 割弱で、創業時の所在地は「杉並区」が7 割半
  • 杉並区外からの転入経験がある事業所は2 割半で、そのうち杉並区内での操業は10 年以内が4割強。都心部から転入する傾向がある
  • 10 年以内に創業した事業所の割合が高い産業は「5 福祉・介護系」で、操業期間の平均は15
  • 転入の割合が高い産業は「2 アート・クリエイト系」と「8 他の事業サービス系」で、将来杉並区外への転出意向も比較的高い

杉並区で操業を開始した理由

  • 杉並区で操業を開始した理由は、「ここに住まいを確保したから」「交通が便利だったから」など、周辺環境を重視する傾向がある。また、転入経験のある事業所は、交通利便性を評価している。
  • 杉並区内で創業を続ける意向がある事業所は9 割弱
  • 杉並区外に移転意向がある事業所の割合が高い産業は「2 アート・クリエイト系」「1 情報・通信系」「8 他の事業サービス系」の順で、その理由は、業務上の利便性や建物の立地条件など
  • 移転先としては、都心部を希望する傾向にある

人材について

従業形態・給与体系

  • 従業者数の多い産業は、「5 福祉・介護系」「8 他の事業サービス系」「1 情報・通信系」の順となっている。一方、従業者数の少ない産業は、「4 研究開発・知的集約系」「6 健康系」「2 アート・クリエイト系」の順となっている
  • 「1 情報・通信系」は「②正社員・正職員」の割合が高く、「5 福祉・介護系」は「④パート・アルバイト」の割合が高い傾向にある。
  • 給与体系は、「①個人事業主・有給役員」「②正社員・正職員」「③契約社員」は「月給制」が中心、「④パート・アルバイト」は「時給制」が中心である
  • 「5 福祉・介護系」の「③契約社員」は、「月給制」と「時給制」が同じ割合で、他産業と傾向が異なる

増減動向・採用意向

  • 3 年間の採用動向は、「減らした」よりも「増やした」割合の方が高く、今後も「減らしたい」よりも「増やしたい」割合の方が高い
  • 「1 情報・通信系」は「②正社員・正職員」を、「5 福祉・介護系」は「②正社員・正職員」と「④パート・アルバイト」をそれぞれ増やしている
  • 今後の採用意向は全体的に高く、「②正社員・正職員」は特に高い
  • 「1 情報・通信系」と「5 福祉・介護系」は今後の採用意向も高い

売上について

売上の動向

  • 年間売上高は、「1 億円未満」の事業所が7 割半、「1 億円以上」の事業所が2 割強。「1 情報・通信系」は年間売上高が高く、「6 健康系」は年間売上高が低い傾向にある
  • 売上高・利益とも対前年比が減少傾向であり、3 年間の動向も「減収減益」が5 割弱。全体的に落ち込んでいる傾向がある
  • 3 年間で増益だった事業所は3 割弱で、その理由は顧客の増加に加え、経費削減や新商品の開発などがあげられる。一方、減益になった事業所は6 割弱で、その理由は顧客の減少や人件費の増加などがあげられる
  • 「1 情報・通信系」は売上高の対前年比が増加傾向にある事業所の割合が最も高い
  • 「3 環境系」は売上高・利益とも対前年比が減少傾向にある事業所の割合が高く、3 年間の動向も「減収減益」の事業所の割合が高い

売上拡大等のために行った取り組み・必要な取り組み

  • 売上拡大等のための取り組みを行った事業所は5 割半であり、その内容は新商品開発や人件費見直しなど
  • 増益傾向にある事業所の割合が高い「1 情報・通信系」は、売上拡大に向けた取り組みを行った事業所が多く、具体的には「新製品の開発など、取り扱う製品・サービスの拡大」を行う傾向にある。一方、「4 研究開発・知的集約系」は取り組みを行っていない事業所が多い
  • 人件費の増加が課題となっている「5 福祉・介護系」は、「人件費の削減や要員管理の見直し」を行う傾向にある
  • 今後必要な取り組みは、「⑥人材の育成・確保」、「②顧客へのマーケティング」、「⑬同業者との連携」、「⑩広告・宣伝活動」の順で、人材確保及び営業活動の強化に集中している
  • 従業員の教育や採用に積極的な「1 情報・通信系」や「5 福祉・介護系」は、「⑥人材の育成・確保」や「⑩広告・宣伝活動」などを必要とする傾向にある

今後の見通し

  • 各事業所の今後5 年間の見通しは、いずれの分野も不安と感じていたり見通しは暗いと感じている事業所の割合が5 割を超える
  • 特に減益傾向の事業所の割合が高い「3 環境系」は、不安を感じている事業所が7 割である

事業主・経営者について

事業主・経営者の属性・住まい

  • 事業主・経営者は「男性」が8 割強、「50 歳以上」が7 割である
  • 「5 福祉・介護系」は、「女性」が他の産業に比べて多い
  • 「1 情報・通信系」と「6 健康系」は「40 歳代」以下の若い事業主・経営者が多い傾向にあり、「3環境系」と「4 研究開発・知的集約系」は「50 歳代」以上の事業主・経営者が多い傾向にある
  • 事業主・経営者の居住地は、「杉並区内」が6 割であり、職住近接の傾向がある
  • 特に「2 アート・クリエイト系」は、同室を含む同一建物内に住むという割合が3 割近く、自宅兼オフィスというワークスタイルが多い

事業主・経営者の経歴

  • 事業主・経営者は、「新たに起業」した人が4 割弱、「現事業所(企業)の出身」が3 割強である
  • 「6 健康系」と「7 他の生活関連系」は「新たに起業」する事業主・経営者が多い傾向があり、「3環境系」と「5 福祉・介護系」は「現事業所(企業)の出身」である事業主・経営者が多い傾向がある

杉並区の新産業事業所の立地場所

事業所の立地場所・建物形態

  • 該当事業所は、「住宅エリア」、「幹線道路エリア」、「商店街エリア・駅周辺エリア」に均等に立地している
  • 「6 健康系」は駅周辺や商店街など集客が見込まれる場所に立地する傾向があり、「5 福祉・介護系」は住宅が集まる場所に立地する傾向がある
  • 建物形態は、住宅系が6 割、オフィス系が4 割
  • 「1 情報・通信系」はオフィス系ビルが多く、「7 他の生活関連系」は「戸建」が多い
  • 最寄り駅からの距離は、1,000m以内の徒歩圏内が9 割以上
  • 「1 情報・通信系」や「6 健康系」は、駅から近い場所に立地する傾向がある。また、「5 福祉・介護系」や「8 他の事業サービス系」は、鉄道駅からの距離にあまり影響されない傾向がある

事業所分布

  • 事業所は、中央線沿線と丸の内線沿線に多く分布している。その中でも、「荻窪駅」、「高円寺駅」に事業所が集中している。また、中央線と丸の内線の両方にアクセス可能な「高円寺駅」と「新高円寺駅」の間や「阿佐ヶ谷駅」と「南阿佐ヶ谷駅」の間に集中している
  • 「荻窪駅」周辺には、「4 研究開発・知的集約系」や「6 健康系」の事業所が多い。また、「高円寺駅」周辺には、「3 環境系」や「7 他の生活関連系」を中心に多くの産業が集中している

杉並区の新産業事業所数の変化

  • 新産業の事業所数は2,685 事業所。構成比は、前回調査とほぼ同じ
  • 全体的に減少傾向にあるものの、「5 福祉・介護系」と「6 健康系」はほぼ横ばいである
  • 産業分類中分類でみると、福祉・介護サービスやスポーツ教室等などで増加傾向がみられる

23 区内での集中率

  • 新産業全体で、23 区での杉並区の事業所数集中率は約3%
  • 「5 福祉・介護系」「7 他の生活関連系」「6 健康系」の順で集中率が高い傾向にある
  • 特に「2 アート・クリエイト系 2A アニメ制作」は集中率が高く、23 区内の約30%を占める

事業所総数・法人格別事業所数

  • 杉並区内の事業所数は、平成13 年調査から18 年調査にかけて1,085 事業所(5.0%減)減少している
  • 東京都内の事業所も減少傾向にあるが、杉並区の方が減少の割合が大きい
  • 経営組織は個人経営の割合が低下する一方、株式会社(有限会社含む)の割合が高まる

産業分類別事業所数の推移

  • 区内事業所の半分以上の業種において、事業所数は減少している
  • 杉並区の新産業に関連する「情報通信業」と「医療、福祉」は、事業所数が10%以上増えている

常用雇用者数の推移

  • 常用雇用者規模でみると、10~49 人規模の事業所が増加傾向にある
  • 10~49 人規模の事業所の業種に着目すると、飲食店及び飲食関連の小売業並びに医療・福祉関連の事業所が多い

派遣下請従業者受入数の推移

  • 派遣・下請従業者を受け入れている事業所は区内事業所全体の約3%にとどまる
  • 受入事業所数は増加傾向にあり、受入人数が「30~49 人」を除くすべてで増加している
  • 派遣・下請従業者を100 人以上受け入れている事業所は情報通信業が中心である

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